GDPR施行から見た日本のポイントは「中庸」
瀧口氏(モデレーター):先ほどはアメリカの事例でしたが、ヨーロッパはいかがでしょうか?
若林氏(黒鳥社):ヨーロッパは、ドイツ・ベルリンを中心として、市民社会はgovernが嫌いな人たちです。
その中で、2017年にGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、データは個人に帰属するというものである、という建前を打ち立てました。
一種の憲法みたいなものですが、そこまで厳密に運用されるかというと、そうでもないとは思います。
ただ、GDPRというものを実際にどの程度のレベルで運用していくのかは、色々な訴訟が起きたりすることで判例が積み上がってこないと見えてこないと、EUの官僚が言っていたと知り合いが言っていました。
おそらく、それには10年〜20年かかるだろう、と。
一方アメリカにおいては、全体としては機運の盛り上がりはそこまでですが、連邦レベルでGDPRみたいなものを作った方が良いということを、アップルのティム・クックさんがかなり声高に言っていたりします。
ガバナンスをちゃんと制度化しないとまずいよね、という話です。
その中で一番頭のいい動き方をしていたのは中国ですね。
最初から中国共産党のもとで保護的施策をとったことで、ある意味で他先進諸国を凌駕するようなイノベーションを生み出すことができたわけです。
技術レベルにおいても、遜色ない、もしくはすでに上を行っているということになったわけなので、無責任な言い方すると、彼らはやっぱ頭いいなと感じました。
瀧口氏(モデレーター):世界のこのような潮流の中で、日本はどのように動いていけばいいのでしょうか?
瀧島氏(経済産業省):日本のポイントは「中庸」だと思っています。
小さな政府・大きな政府など、割と二元論で語られることが多いですが、片方ではきっとないでしょう。
結局、答えはシンプルです。
「三法よし」なんて言うくらい、日本は協調型社会の仕組みが、もともと得意なはずです。
そういう文脈で新しい社会の仕組みができるといいなと思っていますし、このような視点でG20などでも各国と話していきたいと思います。
若林氏(黒鳥社):とはいえ、今年に入ってから日本はEUとの貿易協定、日EU経済連携協定(EPA)の中で、GDPRに対する十分性認定を与えられるということになっています。
ということは、それちゃんと守らなきゃいけない、と言うことです。
リージョンによってインターネットのガバナンスが変わってくるとはいえ、そもそもインターネットは国境を越えるという事実もあります。
その中で、EUと取引しようと思ったら、GRPDと同等かそれ以上のレギュレーションにならざるを得ないでしょう。
その中で、アメリカや中国はどうするのか。
こういった国際的な合意が、長い目で必要にはなってくるとは思います。
瀧島氏(経済産業省):そうですね。
制度自体は各国で別、ということには、きっとなっていかないと思います。
そこをコーディネートしていくことは大変ですが、「ここは最低限こうしよう」と言うものは各国揃えていく作業・努力は続けていきたいと思います。
編集後記
インターネットをはじめとするテクノロジーの世界的な潮流について、さすがは元WIRED編集長の若林様。
決して楽観的でない視点での解説は、非常に学びの深いものとなりました。
LoveTech Mediaが、Report5〜6にかけてガバナンスアーキテクチャのセッションを重点的にお伝えした背景も、このGDPRをはじめとした各国による適切なレギュレーションへの機運醸成の背景を踏まえてとなります。
それを前提に、日本はどうするのか。
官民問わず、この視点を常に持つべきと、改めて感じました。
次回Report9では、「貧困、健康、教育、そしてさらに…… 社会課題解決に向かうAIは”限界知らず”」についてレポートします。
お楽しみに!
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